導入
製品の品質トラブルは、どんなに慎重に設計してもゼロにはなりません。
量産が始まったあとに「不具合が出た」と連絡を受ける瞬間、
設計者としては胸が締めつけられるような気持ちになります。
しかし、トラブル対応を通じて学べることは非常に多く、
実はこの「失敗の後の対応力」こそ、エンジニアの真価を問われる場面です。
この記事では、私が実際に経験した品質トラブル対応の流れと、
そこから学んだ「原因追及の重要性」について紹介します。(内部リンク先:信頼性評価試験と継続の力 製品寿命設計と環境試験で学んだ“長く使われるモノづく
現場で起きた“想定外”のトラブル
ある年、私が設計を担当した製品が市場に出た数か月後、
「一部のロットで操作ボタンが反応しない」という報告が入りました。
すぐに製造ラインの在庫と市場製品を調査したところ、
内部の接点バネがわずかに変形していることが判明。
ただし、設計図上では問題ない寸法であり、加工精度も規格内。
このとき初めて、「図面が正しくても、実物が正しく動くとは限らない」という
当たり前の事実に改めて気づかされました。
私たちは原因を特定するため、実機分解・断面観察・環境試験を繰り返し行い、
結果的に「組立工程でのわずかな圧入ズレ」が原因であることを突き止めました。
わずか0.2mmのズレ。
しかし、それが大量生産の中では数千台に影響を与える規模の不良へとつながっていたのです。
トラブル対応で一番大切なのは「焦らないこと」
トラブル発生時、最も大切なのは「早く直すこと」ではなく「正しく理解すること」です。
現場では「とにかくすぐ対策を」と求められがちですが、
中途半端な応急処置は、後でさらに大きな問題を生みます。
私は当時、上司からこう言われました。
「原因を突き止めないまま対策するのは、風邪の薬で骨折を治そうとするようなものだ。」
その言葉の意味を実感したのは、まさにこのトラブル対応の最中でした。
一見すると加工不良のように見えても、実際には設計と工程の“境界”に原因があるケースが多い。
この境界を丁寧にたどることが、真の再発防止につながるのです。
「なぜ」を5回繰り返す――トヨタ式の原点
原因追及の定番手法に「なぜを5回問う」という考え方があります。
単なるスローガンではなく、実際に効果があります。
私たちのケースを例にすると、次のように整理できました。
なぜ 接点が変形したのか? → 圧入時の荷重が高かった。
なぜ 荷重が高かったのか? → ジグの押さえ位置がズレていた。
なぜ ズレたのか? → 治具設計時の位置基準が曖昧だった。
なぜ 曖昧な設計になったのか? → 組立順序を考慮していなかった。
なぜ 順序を考慮できなかったのか? → 工程設計との情報共有が不足していた。
こうして掘り下げていくと、単なる部品不良ではなく、
「設計と製造の連携不足」という本質的な原因にたどり着きます。
表面上の原因を見つけて終わりにせず、
“根っこ”にある問題を特定する――それが品質向上の第一歩です。
チーム全体で“学び”に変える仕組みを作る
トラブルを個人の責任で終わらせず、組織全体の学びに変えることが大切です。
私は不具合の発生原因をまとめた「品質カルテ」を作成し、
設計・製造・品質保証の各部門で共有しました。
その中では、
発生の経緯
技術的な要因
改善策
再発防止のための標準化内容
を明確に整理します。
さらに、次の製品開発の初期段階で、過去の品質カルテを振り返る“レビュー会”を実施しました。
この習慣が定着すると、若手設計者も過去の失敗を参照でき、
同じミスを繰り返す確率が大幅に減りました。
「品質トラブルを“組織の財産”に変える」こと。
それが、長く続くモノづくりの強さを生み出すのです。
技術だけでなく「姿勢」も問われる
品質トラブル対応では、技術的スキル以上に「誠実さ」と「粘り強さ」が求められます。
お客様への説明、社内調整、再現試験――どれも時間と労力がかかります。
あるとき、私は取引先からこう言われました。
「不具合は残念でしたが、原因を最後まで説明してくれた姿勢に信頼を感じました。」
この言葉が、何よりの報酬でした。
完璧な製品を作ることは難しくても、誠実な対応を続けることは誰にでもできます。
そしてその積み重ねこそが、企業と顧客の信頼を育てるのだと感じました。
関連文書:
まとめ
品質トラブル対応は、設計者にとって避けられない試練です。
しかし、その中には技術を磨き、人として成長するための学びが詰まっています。
重要なのは「早く直す」ことではなく、「本質を見抜く」こと。
“なぜ”を5回繰り返し、チーム全体で原因を共有し、再発を防ぐ仕組みを作る。
私はこの経験を通して、
「トラブルは終わりではなく、改善の始まり」
だということを強く実感しました。
モノづくりに携わる限り、問題は必ず発生します。
だからこそ、逃げずに向き合い、学びに変える姿勢が、
次の製品の信頼性を築く一番の力になるのです。