製品開発の中で「信頼性評価試験」と聞くと、地味で時間のかかる工程という印象を持つ人も多いかもしれません。
しかし、長年エンジニアとしてものづくりに関わってきた私は、この地味な作業こそが“品質の本質”を支えていると感じています。
設計をどれだけ工夫しても、実際の使用環境に耐えられなければ意味がありません。今回は、私が経験した信頼性評価試験の現場から学んだ「継続の力」についてお話しします。
■ 信頼性試験とは「壊して確かめる仕事」
信頼性試験とは、製品をあえて“壊れるまで使う”試験です。
高温・低温・湿度・振動・落下など、実際の使用環境よりも厳しい条件でテストし、弱点を洗い出します。
言い換えれば、「製品の寿命を前もって知る」ための実験です。
私が担当した電子機器では、気温−20℃から80℃の環境試験や、連続通電試験などを繰り返し行いました。
あるとき、正常に動いていた回路が温度変化によって突然動作不良を起こしたことがありました。
原因を調べてみると、基板のハンダ部分に微細なクラックが生じていたのです。
目視では確認できないほどの小さな割れでしたが、このわずかな欠陥が後の製品寿命を大きく左右することを思い知らされました。
この経験から、私は「設計の完成度を試すのではなく、限界を探る」という視点の大切さを学びました。
信頼性試験は、成功を確認するためのものではなく、“どこで壊れるか”を知るためのものなのです。
■ データの積み重ねが「見えない強み」になる
試験を続けていると、日々のデータ収集が単調に感じることがあります。
しかし、実はこの地道な積み重ねが企業の技術力を底上げします。
1回の試験で得られる情報はわずかでも、数年分のデータを蓄積すると「この材料は湿度に弱い」「この構造は振動に強い」といった傾向が見えてきます。
この“経験のデータベース化”こそ、次の設計改良に直結する財産です。
私は後輩エンジニアにも、「1回の試験で結果を急ぐな」と伝えていました。
信頼性の向上は、短期間では成果が出ません。
それでも諦めずに検証を続けることで、確実に「壊れにくい設計」「安定した品質」が実現します。
継続こそが、信頼性評価の本当の力です。
■ 試験現場で学んだ“チームの力”
信頼性試験の現場では、一人の力では限界があります。
設計者、評価担当者、製造担当、品質保証など、複数の部署が連携して課題を共有します。
ある製品で、温度試験中に樹脂部品が変形したことがありました。
当初は材料の問題と思われましたが、現場の担当者が「金型の冷却時間が短すぎるのでは?」と指摘。
調べてみると、確かに成形条件の微調整が必要でした。
このように、異なる立場の人たちが意見を出し合うことで、根本的な原因にたどり着けることがあります。
信頼性試験は“失敗の共有”が最も重要です。
失敗を隠さず、次の改善にどうつなげるかを議論できるチームほど強い。
それが品質文化の根幹だと思います。
■ 継続の力が「信頼のブランド」をつくる
多くの企業が「品質第一」を掲げていますが、その裏には膨大な試験と継続的な努力があります。
ユーザーは普段、製品がどれほど試験されているかを知ることはありません。
しかし、「壊れない安心感」は、そうした地道な積み重ねによって生まれています。
私は今でも、テストルームで回り続ける試験機の音を聞くと、「信頼はこうして作られる」と感じます。
継続してデータを取り、原因を突き止め、改良を重ねる。
このサイクルが企業の信頼を支え、長期的なブランド力につながっていくのです。
まとめ
信頼性評価試験とは、単なる品質チェックではありません。
“壊れるまで試す”ことで見えてくる改良点を拾い上げ、次につなげるプロセスです。
地味で根気のいる作業ですが、その積み重ねが技術力の差を生みます。
そして、信頼性試験の最大の価値は「継続の力」にあります。
失敗を恐れず、試験を繰り返すこと。
その姿勢こそが製品を強くし、会社を強くする原動力です。
私自身、この経験を通じて「地味な努力こそ、長く信頼されるモノをつくる」という信念を持つようになりました。