製品開発の現場では、「完璧な設計」というものは存在しません。どんなに入念に設計しても、試作や量産の段階で必ず改善点が見つかります。
私は自動車関連部品の設計に携わっていた頃、何度も設計変更を繰り返しながら“より良い形”を追い求めました。CAD画面の中では理想的に見えた構造も、実際の製品として形になったときに初めて「現実の厳しさ」を知るのです。
今回はその経験から、設計における「改良の大切さ」についてお話しします。
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自動車の設計では、わずかな寸法差や材質の違いが性能や信頼性に大きく影響します。特に樹脂部品や金属プレス部品などは、量産工程での公差や加工条件によって結果が変わるため、図面通りに作っても必ずしも理想どおりにはなりません。
例えば、樹脂部品であれば、成形時の収縮率のわずかな違いが寸法誤差につながり、結果として組み立ての隙間や応力集中を引き起こすことがあります。設計上「たった0.2mm」の差であっても、それが耐久性の寿命を左右することもあるのです。
私が関わったプロジェクトでは、「強度」「耐久性」「コスト」のバランスを取ることに苦労しました。初期設計では理論上は十分と思えた構造も、実際の試験では想定外の応力集中が発生し、部品の一部に亀裂が入ってしまいました。そのとき初めて、「設計は完成してからが本当のスタート」だと痛感しました。
改良を重ねる過程では、単に形を直すだけでなく、なぜそのような現象が起きたのか、原因を深掘りすることが重要です。設計者が“数字の裏側”を読み解く力を持たないと、根本的な解決には至りません。
改良の第一歩は“現場の声を聞くこと”です。試験担当者や製造現場の作業員が感じている小さな違和感には、必ず理由があります。例えば、組み立て時に「ここが入りにくい」といった声があれば、それは設計上の余裕が足りないサインです。
私は現場でのフィードバックをもとに、部品の形状を微調整し、試作と試験を何度も繰り返しました。その結果、わずか0.1mmの逃げを追加するだけで組立性が大幅に改善し、歩留まりも向上しました。改良とは、大きな発明ではなく「小さな積み重ねの結果」だと実感しました。
また、改良を続けることで設計者自身の“感覚精度”が上がります。図面上では気づけなかった弱点が、試作を重ねるうちに自然と見えてくるようになるのです。
経験を積むほど、数字だけでは表せない“直感的な判断力”が身につきます。「この構造は危ない」「この肉厚では成形ムラが出そうだ」など、設計の初期段階でリスクを察知できるようになります。これは、何度も改良の壁を乗り越えた設計者だけが得られる勘所です。
さらに重要なのは、チーム全体で改良のサイクルを共有することです。設計者だけでなく、製造・品質・購買など、各部署が連携して改善を進めると、組織としての成長スピードが格段に上がります。
私が担当していた部門では、毎週「設計・試験レビュー会」を設け、失敗事例を包み隠さず共有しました。恥ずかしいミスもオープンに話すことで、他のメンバーが同じ罠にはまらない。そうした文化が、結果的に全体の品質レベルを底上げしました。
エンジニアリングの世界では、失敗は避けるものではなく、学ぶための過程です。重要なのは「同じ失敗を繰り返さないこと」と「次に活かす視点を持つこと」。
一度の失敗を責めるのではなく、それをデータとして次に活かす仕組みを作る。これが、個人の成長だけでなく、チームや企業の競争力を高める源になります。
まとめ
クルマの設計を通じて学んだのは、「改良こそが成長の証」ということです。最初から完璧を目指すのではなく、現場の課題を一つひとつ解決しながら最良の形へと近づける。
その積み重ねの中にこそ、エンジニアとしての醍醐味があります。
設計とは「終わらない改良の連続」であり、その過程を楽しめる人が、最終的に良いモノを生み出せるのだと思います。
改良に終わりはありません。けれど、改良を重ねるほど自分の“設計眼”が磨かれ、次の課題を見つける力が育ちます。
つまり、改良とは「設計者自身をも進化させる行為」なのです。
これからも、図面の中の“理想”と現場の“現実”のギャップを埋めながら、より良いものづくりを追求していきたいと思います。