製品の「信頼性」は、見えない部分でつくられます。
その中でも、落下試験は最も基本的で、かつ重要な信頼性試験のひとつです。
私が前職で機構設計を担当していたとき、製品評価の一環として「落下試験」を産業技術センターで行った経験があります。
この記事では、その実体験をもとに、落下試験の目的・手順・現場で感じたことをわかりやすく解説します。
ものづくりに関わる方はもちろん、品質評価に興味がある方にも役立つ内容です。
落下試験とは?
落下試験とは、製品を所定の高さから落とし、破損や機能不良が起きないか確認する試験です。
日常生活や輸送中などに起こりうる落下事故を想定し、どの高さ・方向・衝撃で破損するかを検証します。
例えば次のようなケースが対象です。
・手からスマートフォンを落とした
・梱包箱が運搬中に落下した
・設置時に装置が転倒した
こうした実際の使用環境を再現することで、製品の耐衝撃性・耐久性・安全性を客観的に確認できます。
落下試験の目的
落下試験の目的は、単に「壊れないこと」を確認するだけではありません。
むしろ重要なのは、壊れ方を知ることです。
・どの方向で最も壊れやすいか
・どの部品が先に破損するか
・機能はどの段階で失われるか
これらを把握することで、設計者は弱点を明確にし、構造や素材を改善できます。
つまり落下試験は、品質向上のためのフィードバック試験なのです。
基本的な試験の流れ
落下試験は、一見単純ですが、手順は非常に体系化されています。
以下は一般的な流れです。
1.準備
実際の使用状態や梱包状態に近い形で製品を準備します。
2.環境設定
破片の飛散や人身事故を防ぐため、安全柵や緩衝材を設置した試験場を使用します。
3.落下実施
所定の高さ(例:0.5m、1.0m、1.5mなど)から自由落下させ、衝撃を再現します。
角・辺・面など、複数の方向で試験を行うこともあります。
4.確認・記録
落下後に外観・内部・機能をチェックし、破損箇所や動作不良を詳細に記録します。
5.改善・再評価
結果をもとに設計変更や素材見直しを行い、再度試験して改善効果を確認します。
実体験から感じたこと
私が落下試験を行ったのは20年ほど前。
当時は、人が手で持ち上げてメジャーで高さを測り、製品を落とすというアナログな方法が主流でした。
しかし現在では、各地の産業技術センターに「落下試験機」が整備されており、
高さ・角度・速度などを正確に制御できる装置で試験を実施できます。
私が担当した試験でも、同じ製品を何度も同条件で落とすことができ、
「繰り返し再現できる」という点に技術的な意味を感じました。
このように、データに基づく客観的な試験を行うことで、
・耐久性の数値化
・設計変更の効果検証
・製品寿命の予測
が可能になり、結果的に信頼できる製品づくりにつながります。
落下試験で得られる気づき
落下試験を経験して感じたのは、
「壊れた原因を正しく理解することが、品質改善の第一歩」だということです。
壊れ方を観察すると、単なる素材の弱さではなく、
・ネジ位置のバランス
・部品の固定方法
・内部スペースの余裕不足
といった設計上の工夫不足が原因になっていることも多いのです。
この気づきが、次の製品開発の大きなヒントになります。
まとめ|落下試験は品質の裏側を支える“地味だけど重要”な仕事
落下試験は、見た目には地味な作業です。
しかし、製品の安全性と信頼性を保証するうえで欠かせない工程です。
「どの高さ・どの方向で壊れるか」を知ること
その結果を次の設計に活かすこと
これこそが、ものづくりの真価を支える考え方だと思います。
実際に試験を経験して感じたのは、
地道な評価試験の積み重ねこそが、ユーザーの安心をつくるということ。
落下試験を通じて、改めて「品質とは信頼の積み重ね」であると実感しました。