【設計・開発の現場】

UL規格導入から学んだ国際基準の重要性

製品の品質を世界に通用させるためには、単に「良いものを作る」だけでは不十分です。
特に海外市場を視野に入れた製品開発では、「国際基準」を理解し、設計や評価に反映させることが求められます。
私が自動車部品の設計に携わっていた頃、初めて「UL規格(アメリカの安全規格)」を導入したプロジェクトに関わりました。
当時の苦労と発見を通じて、「世界基準でモノを考える大切さ」を強く感じた経験をお話しします。

■ UL規格とは何か ― “安全”を科学する国際ルール

UL(Underwriters Laboratories)は、アメリカに本部を置く安全規格認証機関です。
電気・電子機器を中心に、火災や感電のリスクを防ぐための評価基準を定めています。
例えば、プラスチック材料であれば「UL94燃焼試験」で燃えにくさを評価し、難燃性の等級(V-0、V-1、HBなど)を判定します。
この規格に適合していないと、海外では製品販売ができないケースもあります。

私が担当した製品は自動車の電装部品で、樹脂ケースのUL規格適合が必須条件でした。
設計時点で素材メーカーのデータシートにUL認証の有無を確認し、材料選定を行う必要がありました。
しかし、当時はまだ社内にUL規格の知見が少なく、試験条件や判定基準を理解するところからのスタートでした。

■ “世界基準”の考え方は、単なるチェックリストではない

UL規格導入を通して最も印象に残ったのは、「安全を数値化する」という発想です。
たとえば、燃焼試験では炎を当てた時間や燃え尽きるまでの秒数を正確に測定し、数値で合否を判断します。
つまり「安全」や「安心」という曖昧な概念を、誰が見ても再現できる“データ”として定義しているのです。

これは、従来の「経験や勘」に頼った設計文化とは大きく異なります。
最初は細かい条件に戸惑いましたが、次第に「ルールがあるからこそ、他国と共通の品質を語れる」という意識に変わっていきました。
設計とは感覚的な創造作業であると同時に、再現性を担保する“科学”でもある。
この考え方こそ、UL規格を通じて得た最大の学びでした。

■ 試験の壁とチームの挑戦

初めてのUL試験では、燃焼時間が規定値をオーバーしてしまい、不合格となりました。
原因を分析すると、使用していた樹脂に含まれる添加剤が、熱によりガス化しやすい性質を持っていたのです。
私たちは材料メーカーと協力して、添加剤配合を見直し、再試験を実施。
結果、V-0等級を取得することができました。

この経験を通じて、「試験に落ちた」こと自体が悪いのではなく、
「なぜ落ちたのかを科学的に突き止め、改善すること」が本当の目的であると気づきました。

また、UL試験は材料だけでなく“設計形状”にも影響します。
樹脂の厚みやリブの配置によって燃焼の進み方が変わるため、設計段階から規格を意識した形状設計が求められました。
このとき初めて、「設計と評価は切り離せない」ことを痛感しました。

■ 規格は「制約」ではなく「品質を守る共通言語」

一見すると、ULやJISのような規格は「設計を縛るルール」に見えます。
しかし、実際には「安全性と品質を共有するための共通言語」です。
国やメーカーが違っても、UL規格に基づいて話をすれば、同じ安全基準を前提に議論できます。
これは、グローバル開発の現場では非常に大きな利点です。

また、規格に基づいた設計を行うことで、
「品質を保証する根拠」が社内外に示せるようになります。
例えば、「この製品はUL94 V-0の樹脂を使用しており、600V環境でも自己消火性を確認済みです」といった説明ができると、
お客様の信頼性評価もスムーズに進みます。

私はこの経験から、「ルールを理解することで自由度が増す」という逆説的な事実を学びました。
制約があるからこそ、設計者は創意工夫で最適解を探し、結果としてより強い製品が生まれるのです。

■ グローバル基準がエンジニアの視野を広げる

UL規格の導入をきっかけに、海外の安全規格(IEC、CSA、EN規格など)にも関心を持つようになりました。
調べていくうちに、国ごとに求める安全基準や試験方法が微妙に異なることに気づきます。
「アメリカでは火災防止重視」「ヨーロッパでは環境配慮重視」など、文化や産業構造の違いがそのまま規格思想に反映されているのです。

この発見は、私にとって設計という仕事を“文化交流”のように感じさせました。
製品は単なるモノではなく、国と国をつなぐ“安全の約束”でもある。
UL規格を理解することは、世界のユーザーと共通の言葉で信頼を築く第一歩だと実感しました。

まとめ

UL規格導入の経験から学んだのは、「国際基準とは品質のパスポート」であるということです。
安全性を数値化し、共通のルールで語ることができるからこそ、世界中で製品を使ってもらえる。

最初は複雑で難しく感じる規格も、実際には設計者の視野を広げ、ものづくりの質を高める強力なツールです。
UL規格に取り組むことで、私は「安全を設計する」という意識を持つようになり、
それがその後の開発全体に良い影響を与えました。

モノづくりの現場で国際基準を学ぶことは、単なる手続きではなく、
“世界に通じる信頼”を積み重ねるための重要なステップなのだと思います。

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