【設計・開発の現場】

量産設計の難しさと工夫|現場で学んだ“作れる設計”の重要性

設計の仕事というと、CADで図面を描いて形を作るイメージを持たれがちですが、実際の現場では「量産できる設計」に落とし込むことが最も難しい工程です。
試作品でうまくいっても、量産工程で不良やばらつきが発生するケースは少なくありません。
私自身、機構設計の担当として何度もこの壁にぶつかり、「作れる設計」「安定して生産できる設計」の大切さを痛感しました。
この記事では、量産設計の難しさと、現場で実践してきた具体的な工夫についてお話しします。

試作と量産のギャップ

試作品段階では、1台ずつ丁寧に組み立てるため、設計通りの性能が出やすいものです。
ところが量産に移ると、金型の精度差、材料ロットのばらつき、作業者の熟練度など、さまざまな要因で結果が変わります。
特にプラスチック部品の筐体では、収縮・反り・寸法変化 が大きく、設計値どおりに仕上がらないことも多いです。

私が担当した製品でも、初期の量産立ち上げで「ネジ穴位置が合わない」「隙間が広がる」といったトラブルが頻発しました。
原因を突き詰めると、金型設計時の収縮率設定が実測値と微妙に違っていたのです。
それ以来、私は試作段階から実際の生産条件に近い状態での評価を重視するようになりました。

たとえば、試作品を3Dプリンタで作るだけでなく、量産予定の樹脂を用いた小ロット射出成形で試験品を作り、変形や組立性を確認する。
この“準量産試作”を挟むことで、量産移行後のトラブルが大幅に減りました。

現場との連携が設計品質を高める

量産設計を成功させるために欠かせないのが、製造現場との密なコミュニケーションです。
設計図面上では成立していても、実際の作業環境では「手が入らない」「治具が届かない」といった問題が起こります。

あるとき、筐体カバーの組立工程で「ドライバーが入らない」と現場から指摘を受けました。
設計では3D上で問題ないように見えていたのですが、実際には作業者の手の角度や工具の長さが影響していたのです。
その経験から、私は「図面で終わらない設計」を意識するようになりました。

現場の作業者に組立工程を実際に試してもらい、動線や作業時間を記録。
その結果を設計に反映し、「手が届く・見える・間違えにくい」構造へと改良しました。
このように、設計と現場の協力関係ができると、製品の信頼性も格段に上がります。

公差設計の重要性

量産で品質を安定させるには、公差設計(ばらつきを考慮した寸法管理)が鍵になります。
公差を厳しくしすぎると加工コストが跳ね上がり、緩すぎると組立不良が発生します。
そのバランスを取るのが設計者の腕の見せ所です。

私は量産設計の際、次の3つのステップで公差を決めていました。

1.重要寸法の明確化(機能に直接関わる部分を特定)

2.シミュレーションと実測の併用(3D CAD上での公差解析と試作評価)

3.コストとの両立検討(加工精度を上げるか、構造で吸収するかを判断)

特に筐体設計では、「位置決めボスの高さ」や「勘合部のすき間」が性能に直結するため、慎重な設定が求められます。
これらの公差を設計段階で明確にしておくことで、製造側も安心して金型や治具を製作できます。

“設計の引き算”という考え方

量産設計で最も意識すべきことは、「部品を減らす」「工程を減らす」ことです。
つまり、“設計の引き算”です。

多機能・複雑な構造にしたほうが一見高性能に見えますが、実際には組立ミスや不具合のリスクが増します。
私が担当したある案件では、構造を見直して部品点数を30%削減した結果、組立時間が短縮され、コストも大幅に下がりました。
また、少ない部品で構成することは、信頼性向上にもつながります。

特に最近では、設計段階から生産性を考慮する「DFM(Design for Manufacturability)」の考え方が重要視されています。
設計・製造・品質・購買が一体となって製品を作り上げることで、量産時のトラブルを未然に防ぐことができるのです。

トラブルから学ぶ改善サイクル

量産立ち上げでは、トラブルは避けて通れません。
私自身も、ねじの緩み、外観不良、組立治具の不備など、数多くの課題に直面しました。
しかし、失敗の中にこそ「改善の種」があります。

トラブルが起きたときに重要なのは、「原因を特定し、再発を防ぐ仕組みをつくる」こと。
単なる対症療法ではなく、設計・工程・検査の全体を見直す姿勢が求められます。
こうした改善サイクル(PDCA)を積み重ねることで、設計品質は確実に上がります。

まとめ

量産設計は、設計者の経験と現場の知恵が最も試されるフェーズです。
試作で動くものを“量産しても同じ品質で作れるようにする”——そのためには、設計・製造・品質の連携が欠かせません。

「量産しやすい設計」は、単に作業が楽になるだけでなく、製品の安定供給やコスト削減にも直結します。
私はこの経験を通じて、設計とは「作るための図面」ではなく、「作り続けられる図面」を描くことだと実感しました。

設計者が現場を理解し、現場が設計を信頼する。
その信頼の積み重ねこそが、良い製品づくりの基盤になるのだと思います。

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