製品を設計する上で欠かせないのが「基準づくり」です。
設計者は、単に形を作るだけでなく「どの性能を、どの基準で保証するか」を明確にしなければなりません。その指標となるのが JIS(日本産業規格) です。
私が設計を担当していた時期にも、新しい製品の仕様をまとめる際にJISを基にした規格調査を行い、そこから多くの学びを得ました。この記事では、その経験から感じた「標準化の意味」と「製品仕様づくりの大切さ」を紹介します。
JIS規格とは?
JIS(Japanese Industrial Standards)は、日本の産業製品や試験方法などについて国家が定める共通基準です。
例えば「ねじの寸法」「プラスチックの強度試験方法」「電気安全の評価方法」など、数多くの分野に細かく分類されています。
設計者にとってのJISは、まさに「設計の辞書」のような存在。どんなに優れたアイデアでも、基準に合っていなければ市場に出せません。
私が担当していたのは、主に小型電子機器の筐体設計でした。製品の外観寸法、耐久性、印字方法、そして安全性など、すべてJISを参照していました。
特に印象に残っているのは、ねじ締結部の強度試験 を設計仕様に落とし込む作業です。
JISでは「ねじの呼び径」や「締結トルク範囲」が詳細に定められていますが、実際の製品では樹脂の材質や肉厚によって最適なトルクが異なります。
そのため、JISの基準を参考にしながらも、社内で実測し、最適値を検証して仕様書に反映しました。
この作業を通じて感じたのは、「JISは守るもの」であると同時に「活用するもの」でもあるということです。
単なる制約ではなく、過去の膨大な知見を整理した“経験の集約”として存在しており、正しく使うことで設計の方向性が明確になります。
規格調査の大切さ
新製品を開発する際、まず最初に行うのが「類似製品の規格調査」です。
どんな材料が使われているか、どんな試験が必要か、どんな表示が求められるかを確認します。
あるとき、ある電子機器の新モデルを立ち上げるにあたり、JISだけでなく IEC(国際電気標準会議)規格 との整合も調べました。
国際市場を見据える場合、日本国内基準だけでは不十分だからです。
調査を進めているうちに、JIS規格とIEC規格の間で表現の違いや単位系の違いに悩まされました。
しかしその過程で、「製品は“日本の基準”の中で完結しない」という事実を痛感しました。
海外展開を視野に入れるなら、初期段階から“世界基準”を考慮した設計が必要なのです。
この経験以降、私は新しい設計に取りかかる際、必ず以下の3点を意識するようになりました。
1.根拠を持った数値設計(JISやISO、ULなどの基準に沿う)
2.将来の市場を見据えた汎用性設計(国内外共通で通用する寸法体系)
3.現場と共有できるドキュメント化(誰が見ても理解できる仕様書)
特に3番目の「ドキュメント化」は、現場でのミスを減らし、引き継ぎをスムーズにする大切な要素です。JIS規格の条文をそのまま引用するだけでなく、「この項目をどう解釈し、どのように設計へ反映したか」を明文化することで、次の担当者にも知識が継承されます。
規格を超えた“設計者の判断”
JISを基に仕様を作ることは、設計の基本です。しかし、実際の現場では「規格通りに作るだけ」では通用しない場面もあります。
たとえば、規格が想定していない新素材や新構造を採用する場合、既存の試験方法では評価できないことがあります。
そんなとき、私はJISをベースに「独自評価法」を設計しました。
ある樹脂部品では、JIS K 7113(引張試験)の代わりに、製品実装状態に近い応力条件を再現する治具を作り、社内で耐久試験を実施しました。
結果的に、規格に準じつつも、実際の使用環境に即した評価ができ、品質の裏付けを得ることができました。
この経験を通じ、「JISは“最低限の基準”であり、現場の創意工夫が品質を高める」という教訓を得ました。
まとめ
JIS規格の調査と仕様づくりは、一見地味な作業に見えるかもしれません。
しかし、その根底には「誰が作っても同じ品質にする」という、ものづくりの原点があります。
標準化とは、設計者の感覚を数値に変え、曖昧さをなくす努力の積み重ねです。
規格を学び、調べ、適用するプロセスを繰り返すうちに、私は「設計の裏付けを持つ大切さ」を実感しました。
それは単なる設計力ではなく、「なぜその仕様にしたのか」を説明できる“根拠のある設計”です。
JISという共通言語を使いこなすことで、チームや取引先との信頼が生まれ、製品の品質は安定していきます。
これから設計を学ぶ人にも、ぜひJISを「読む」だけでなく「使いこなす」姿勢を身につけてほしいと思います。
規格を理解し、現場で応用する力こそ、真のプロフェッショナルの設計力です。