製品の信頼性は、「どれだけ過酷な環境に耐えられるか」で決まります。
私は前職で機構設計を担当していた際、製品の耐食性評価として「ガス腐食試験」と「塩水噴霧試験」を行いました。
この記事では、実際に試験を実施した経験から得た学びを紹介します。
なぜこの試験を行うのか?
金属や電子機器は、使用環境によって大きく劣化の進み方が変わります。
特に海沿いや温泉地などの高湿度・高塩分・ガス環境では、腐食やサビが早く進行することがあります。
「製品が実際にその環境でどれだけ持つか?」を確かめるために、
ガス腐食試験(H₂S環境)や塩水噴霧試験(NaCl環境)を行うのです。
これらの試験は、見た目だけでなく「動作への影響」や「印字・コーティングの耐久性」などを確認するために重要です。
ガス腐食試験とは?(硫化水素環境での耐久確認)
ガス腐食試験は、主に硫化水素(H₂S)や二酸化硫黄(SO₂)などのガス環境を再現して行います。
温泉地や工場排気など、ガス成分を含む環境での製品劣化を評価するための試験です。
・試験条件(実施例)
・ガス:硫化水素(H₂S)13ppm前後
・温度:25℃
・湿度:75%
・試験時間:96時間
・試験結果(私の実施結果)
・外観:大きな変化なし
・機能:動作異常なし
・印字:劣化なし
→ つまり、短期間では硫化ガスに対して十分な耐性があることが確認できました。
ただし、内部の端子やネジ部分など“見えない箇所”での腐食は油断できません。
塩水噴霧試験とは?(海沿い環境を再現)
塩水噴霧試験は、海沿いや潮風にさらされる環境を想定した評価試験です。
JIS Z 2371(ISO 9227)などの規格に基づき、一定濃度の塩水を霧状にして試験片に吹き付けます。
・試験条件(実施例)
・試験方法:塩水噴霧 → 乾燥 → 湿潤を繰り返すサイクル試験
・サイクル回数:10回
・総試験時間:約80時間
・試験結果(私の実施結果)
・板金部分に軽微な錆が発生
・乾燥後は動作問題なし
・印字の劣化もほとんどなし
→ 外観的には一部腐食が見られましたが、機能的には影響なしという結果。
しかし、長期間の使用を考えると“表面処理や塗装の改良”が必要だと感じまし
試験を通じて感じたこと
実際に腐食試験を行ってみて感じたのは、腐食は必ずしも即座に製品の致命的な不具合につながらないということ。
しかし、「目に見えない部分で進行している可能性がある」という点は無視できません。
・試験で得られるデータは、
・どの素材・処理がどの環境に強いか
・製品寿命をどの程度見積もるべきか
・改良の優先順位をどうつけるか
といった次の設計につながるヒントになります。
ものづくりの品質は、こうした地道な検証の積み重ねで支えられているのです。
まとめ|試験は「想定外を減らすための学び」
今回紹介した2つの試験から、次のようなことが分かりました。
試験名 再現環境 主な目的 結果のポイント
ガス腐食試験 硫化水素環境 温泉地・ガス発生地域での耐久性確認 外観変化なし、動作問題なし
塩水噴霧試験 海沿い環境 塩害やサビ対策評価 表面錆あり、機能異常なし
これらの評価を通して改めて実感したのは、
「試験の結果が良くても油断せず、原因を探る姿勢が大切」ということです。
製品評価は“合否”ではなく“改善の起点”。
信頼性の裏側には、こうした地道な試験の積み重ねがあります。