設計の仕事をしていると、図面上では完璧に見えても、
実際に試作品を作ってみると必ずといっていいほど「想定外」が起こります。
ネジが合わない、干渉する、強度が足りない、組立が難しい……。
頭の中で描いた理想と、現実のモノづくりの間には小さな“ズレ”が存在します。
しかし、この“ズレ”を埋めることこそが、設計者の腕の見せどころです。
この記事では、私が実際の試作評価を通じて学んだ「改善のヒント」や「チームでの取り組み方」について、具体的な体験を交えてお話しします。
試作は「図面の検証」であり「発想の再構築」
試作品を作る目的は単に“形を確認する”ことではありません。
むしろ「図面の意図が現実で成立するかどうか」を検証する重要なステップです。
例えば、ある電子機器の筐体を設計したときのこと。
試作を行うと、想定していた固定ネジが締めづらく、組立時間が想定より30%も増えてしまいました。
現場の作業員からは「工具が入らない」「指が届かない」という声。
設計室では気づけなかった“手の感覚”を、実際に試作して初めて理解しました。
その経験から、「試作は設計者の思い込みをリセットする場」だと実感しました。
机上の理論ではなく、実際の手と目で確かめる。
その繰り返しが、製品を確実に進化させるのです。
“見た目”よりも“使いやすさ”の評価を重視
試作品が完成すると、まず見た目や仕上がりに目が行きがちです。
しかし、実際に重要なのは“使いやすさ”です。
例えば、製品の蓋を開ける際の指のかかり具合や、操作ボタンの位置、表示の見やすさなど。
これらはCADデータでは判断できません。
私が担当した製品では、試作段階で操作スイッチの位置を3mmずらすだけで、
「押しやすさ」が格段に向上したことがありました。
その後、評価会でユーザー目線のモニター調査を行い、
「操作が直感的」「持ちやすい」というフィードバックを得たとき、
数字では表せない“使い勝手”の重要性を改めて感じました。
モノづくりにおいて、“人が使う瞬間の気持ち”を意識できるかどうかが、良い設計と普通の設計を分けるポイントです。
“失敗データ”を次に活かす
試作評価の現場でありがちなのが、問題を「失敗」として片付けてしまうことです。
しかし本来、試作での不具合は“改善のための情報”であり、宝の山です。
私は毎回の試作後に「失敗ノート」を作り、
何が問題だったのか
どの条件で発生したのか
どう改善したのか
次回にどう反映するのか
をまとめていました。
これをチーム全体で共有することで、同じ失敗を繰り返さず、
若手メンバーにもノウハウが自然と伝わる仕組みができました。
あるとき、材料変更に伴って筐体がわずかに反るトラブルが発生。
以前の記録を見返すと、似たケースで対策を検討した履歴があり、
そのデータを参考にして短時間で原因特定ができました。
“失敗を資産化する”ことは、組織の技術力を確実に底上げします。
試作評価はチームプレー
設計者だけで試作を評価するのではなく、品質保証、製造、調達など、
他部門を巻き込んだチーム評価が大切です。
ある試作評価では、品質保証担当者が「検査工程で誤判定の恐れがある」と指摘しました。
設計段階では見落としていた細かな形状が、検査装置のカメラで誤認される可能性があったのです。
結果的に、部品形状をわずかに変更して生産性を高めることができました。
この経験から、「多様な視点が製品を強くする」という教訓を得ました。
設計の視点だけでは限界があり、他部門との協力が製品の完成度を高める鍵になります。
数字だけでなく“感覚値”も記録する
試作品の評価では、寸法や強度などの数値データを取ることが多いですが、
実際の改善には“感覚的な印象”も重要です。
たとえば、「この部品は組み立てたときに“コツン”と気持ちいい感触がある」とか、
「開閉音が静かで高級感がある」といった感覚。
こうした定量化できない感触を、私は「感性メモ」として残していました。
製品を手に取る人の心に残るのは、最終的にはその“感覚”です。
データと感性の両方を大事にする姿勢が、長く愛されるモノづくりにつながります。
まとめ
試作評価とは、「失敗を恐れず、改善を積み重ねる」ための貴重なプロセスです。
図面では見えない課題を発見し、実際の手で確かめながら、より良い形を探る。
私が学んだ最大の教訓は、「失敗の中にこそ改善のヒントがある」ということ。
失敗を恐れず、それを次に活かす文化を作ることが、
チームの成長と製品の品質向上につながります。
設計とは、完璧を求めることではなく、常に“より良く”を追求すること。
試作評価はその道のりの中で、最も創造的で、最も学びの多い時間なのです。