【改善と継承】

工場への引き継ぎで感じたチームワーク|設計と現場をつなぐ“信頼”の力

設計が完了し、試作も問題なくクリアすると、次はいよいよ量産工場への引き継ぎです。
しかし、この「引き継ぎ」が実は最も神経を使う工程でした。
図面上は完璧でも、現場でそのまま生産できるとは限りません。
工場側は、効率と安全性を最優先に考える立場。
一方で設計側は、性能と品質を守る責任があります。

この二つの視点がぶつかり合う中で、どう協力し、どう信頼関係を築くか。
それこそが“モノづくりチーム”の真価が問われる瞬間です。
この記事では、私が実際に経験した「設計から工場への引き継ぎ」で学んだチームワークの大切さをお話しします。

設計の完成は「スタートライン」

設計が終わった時点で仕事をやり切った気持ちになってしまう人も多いですが、
実際には「そこからが本番」です。

製造ラインに設計を落とし込むとき、金型の調整、治具の設計、組立手順の検討など、細かな課題が次々と出てきます。
たとえば、私が担当した電子機器の量産初期では、組立時にケーブルが治具に干渉してしまう問題が発生しました。
設計図面上では問題ないように見えたのですが、実際のラインで確認すると作業性が悪く、作業員の負担が大きかったのです。

このとき、工場スタッフから直接意見を聞き、一緒に現場で動線や工具の取り回しを検討しました。
設計者が現場に足を運び、作業を“体験”して初めて気づくことがたくさんあります。
図面だけを見ていては分からない「現場の知恵」こそ、引き継ぎで最も貴重な財産です。

トラブルは“敵”ではなく“教材”

引き継ぎの初期段階では、必ずといっていいほどトラブルが起こります。
ネジが締めにくい、部品がはまらない、検査工程での誤判定…。
こうした問題が続くと、設計と工場の間に摩擦が生まれがちです。

しかし、私が経験から学んだのは「トラブルは悪者ではない」ということです。
むしろ、チームの連携を深めるきっかけになります。

ある製品では、量産直前に部品の勘合がうまくいかず、現場がストップするという事態が起きました。
工場側からは「設計ミスでは?」という声も上がりましたが、すぐに責任を押し付けるのではなく、
現場・品質保証・設計の三者で協議し、寸法データを照合。
結果的に、部品サプライヤーの寸法偏差が原因と判明しました。

このとき私が感じたのは、問題が起きた時ほど「責任よりも信頼が問われる」ということ。
互いに信頼して情報を共有し、解決策を探るチームは、確実に強くなります。

「伝える」より「伝わる」設計資料を

工場への引き継ぎで苦労するのが、設計意図の“伝達ミス”です。
図面にすべてを書き込んでも、相手に意図が伝わらなければ意味がありません。

私は引き継ぎ時に、図面だけでなく「設計意図書」を一緒に提出するようにしていました。
そこには、

各部品の役割

寸法設定の理由

使用上の注意点

品質上の重要ポイント(CTQ)
などを簡潔にまとめます。

さらに、現場で説明会を開き、実物を手に取りながら説明しました。
「ここはなぜこの厚みなのか」「このネジはなぜこのトルクなのか」
といった質問を現場から受け、その場で解決する。
このプロセスが、“設計を共有財産にする”ための重要なステップでした。

チームワークを育てる“現場文化”

工場には独自の文化があります。
たとえば「朝の立ち会いミーティング」や「不良ゼロ運動」など、
一見地味な活動に見えても、チームを支える基盤になっています。

設計者がその文化を理解し、尊重することが、信頼関係を築く第一歩です。
私は引き継ぎの期間、できるだけ現場に常駐し、作業者と同じ安全靴を履いて一緒に立ち会いました。
昼休みに食堂で雑談をする中で、意外な改善アイデアが出てくることも多かったです。
「図面を描く人」と「現場で組み立てる人」が対等に意見を言える環境。
それが真のチームワークだと思います。

“誰が作っても同じ品質”を目指して

工場引き継ぎのゴールは、「誰が作っても同じ品質を出せること」です。
そのためには、工程設計・治具設計・検査方法の標準化が欠かせません。
設計段階でのちょっとした配慮が、後の生産安定性を大きく左右します。

私は、組立ミスを防ぐために“ポカヨケ構造”を意識して設計していました。
たとえば、部品の向きが間違っていても入らないような形状にする、
勘合部に左右非対称を設ける、といった工夫です。
こうした設計上の配慮が、現場の作業効率と品質を守ります。

引き継ぎの成功とは、図面を渡すことではなく、
“製品が自立して動き始めること”。
そのための環境を作るのが設計者の役目です。

まとめ

設計から工場への引き継ぎは、単なる作業の移行ではなく、
人と人との信頼を引き継ぐプロセスでもあります。

設計者が現場を理解し、現場が設計者の意図を理解する。
その相互理解が、トラブルを減らし、品質を高め、チームを強くします。

どんなに優れた設計図面も、それを支えるのは“人”です。
チームの力を信じ、互いに尊重し合うことで、初めて「良い製品」が生まれます。

私はこの経験を通じて、「モノづくりの本質はチームワークにある」と確信しました。
設計と製造が一体となる瞬間——それこそが、モノづくりの醍醐味です。

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