自動車の設計では、金属だけでなくプラスチック材料の選定も重要なポイントです。
前職で筐体設計を担当していた際、プラスチック部品の採用にあたり、さまざまな評価試験を調べた経験があります。
特に自動車用プラスチックは「安全性・耐久性・信頼性」が厳しく求められます。
この記事では、代表的な試験方法とその目的をわかりやすく整理しました。
朝礼スピーチや技術勉強会の話題にも活用できる内容です。
燃焼試験 ― 「燃えにくさ」を確認する基本試験
プラスチックは金属に比べて軽量で成形性に優れていますが、燃焼リスクがあるため、「燃えにくい」ことが求められます。
そのため、自動車部品では以下の燃焼試験が行われます。
UL94燃焼試験
小片に一定時間炎を当て、燃焼時間や自己消火性を評価します。
「V-0」「V-1」「V-2」といったランクで分類され、V-0が最も難燃性が高いとされます。
FMVSS 302燃焼性試験
アメリカの自動車安全基準(Federal Motor Vehicle Safety Standard)で定められた内装材の燃焼試験です。
試験片を水平に固定し、燃え広がる速度を測定します。基準値を超えると車両への使用は認められません。
グローワイヤー試験(Glow-Wire Test)
加熱したワイヤー(約850℃)を試料に接触させ、発火や炭化のしやすさを確認します。
電装品やヒータ周辺の部品に適用されることが多く、電気的安全性の確認に有効です。
機械特性試験 ― 「強さ」と「耐久性」を確かめる
自動車は高温・振動・紫外線・湿度など、過酷な環境にさらされます。
そのため、プラスチック部品には長期的な機械的強度が求められます。
代表的な試験は以下のとおりです。
引張・曲げ・衝撃試験
基本的な強度試験で、材料の「伸び」「弾性」「割れにくさ」を確認します。
耐熱・耐熱老化試験
高温環境下で長時間放置し、強度や色の変化を確認します。
エンジンルーム内など、温度変化が激しい部品に必須の試験です。
高速引張試験
衝突時など、瞬間的に力が加わる状況を再現して破断特性を評価します。
複合材(CFRPなど)の評価
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は軽くて強い素材として注目されています。
ただし、繊維配向や成形条件によって特性が変わるため、精密な試験が必要です。
耐トラッキング試験 ― 「絶縁性」を守るための評価
電動化が進む自動車では、高電圧部品の絶縁性も重要な安全要素です。
プラスチックは電気を通しにくい一方で、湿気や汚れにより絶縁性が劣化することがあります。
そのため、以下の試験で「電気的な耐久性」を確認します。
耐トラッキング試験(CTI)
600Vまでの電圧を印加し、材料の表面が炭化して電気が漏れないかを評価します。
数値が高いほど耐トラッキング性に優れています。
傾斜トラッキング試験(IPT)
なお、有機系の絶縁材料は炭化しやすく、トラッキング性が弱い傾向があります。
そのため、ガラス繊維や無機充填材、難燃添加剤で強化されることが一般的です。
まとめ|安全・信頼性を支える「見えない試験」
自動車に使われるプラスチック材料は、次の3つの大分類で試験・評価されています。
試験区分 主な試験名 目的
燃焼試験 UL94、FMVSS 302、グローワイヤー 難燃性の確認
機械特性試験 引張、衝撃、耐熱、UV、熱サイクル 強度・耐久性評価
耐トラッキング試験 CTI、IPT 絶縁性能の確認
これらの試験をクリアした材料だけが、
「安全・長寿命・信頼性のある部品」として採用されます。
車という完成品の裏には、こうした地道な評価試験が何十項目も積み重ねられており、
私たちが安心して乗れるクルマを支えています。